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NHKの取材班が健康格差を詳らかにするコンセプトの本書だが、論文等を引き合いにするのに出典が示されないことが気になって仕方ない。健康格差の存在に説得力を持たせるために行った大学教授へのインタビューも、大学教授であるという権威にすがるのみで、一次情報を確認しているか定かでない様子がもどかしかった。また、終盤、「感情的な議論から一歩踏み出し、「健康格差」を解消するための取り組みを本格化させることが、国にも、私たちにも、求められている」と力強い提言がなされるが、そのための本書が感情的な記述で構成されている違和感を禁じ得ない。さらに、最も気になったのは、本文とあとがきの書きぶりが変わらない点。ふつうは、本文では客観的事実に基づく文章を、あとがきは著者の個人的なつぶやきを、と立場を分けて記述するものという認識でいたが、本書では最後まで感情的な議論に一貫するように見受けられた。アカデミアの人間が著す新書などとは違うんやな。
論理の展開の不安定さにわだかまりが残った一方で、ジャーナリズムのあり方を学んだ。というのも、このように感情的な説明こそが多くの人々の感情を動かしうると思うからだ。例えば、本書で取材される、非正規雇用で糖尿病を悪化させ不可逆な合併症に苦しむ女性のエピソードは強烈だった。あくまで作為的に抽出された1例に過ぎないこの取材内容は、何かを示す根拠としては非常に弱いはず。しかし一方でこれは感情に訴えるコンテンツとなっていて、広く「健康格差」の問題意識を周知するには効果的に思える。そういえば、本書では健康格差解消を目指す方法の一つに、ナッジを上げているが、本書の構成もナッジ狙いかも。淡々とデータを示されるよりも健康格差の課題感をイメージしやすいもん。そもそも、『健康格差 あなたの寿命は社会が決める』に〇〇って書いてあったから、どうこう。というような参照の仕方は編集時に想定されていないだろう。本書の目的は、学術ではないから。健康格差という社会課題を解決するために、健康意識が高くない人を含む多くの人々の感情を揺さぶり、まずは注目を集める。そのための本書なのだ。そして、この「人々の注目を集めることで社会課題解決へ導く」という手法がジャーナリズムなのだろうと思ったり。
とはいえ、もうすぐ大卒になりそうな私としては、簡単にジャーナリズムに心動かされてはならないと気を引き締めたい。今回分かったのは、ジャーナリズムに強さと脆さの両面があること。ジャーナリズムは一次情報じゃないから、間違ったほうへ猪突猛進してしまうこともあるというのは想像に難くない。ジャーナリズムの手法、世論を動かす手法を学びつつも、正しい情報を発信する役目を担う必要が私たちにはあるのではなかろうか。たぶんむちゃくちゃムズイけど。
メディアって情報提供を装って民衆を扇動するから質悪いんやな。